第4回福岡ポエイチレポート
轟然と音を立てる雄大な滝の前に座り尽くしていた。スケッチブックを手に滝のマイナスイオンをダイレクトに浴びる位置で、寒さに耐えている。が、そういえば今日はポエイチではなかったか?と頭の片隅に考えが起こった。
ポエイチ初日になぜ私は天山の山奥にいるのだろうかという当たり前の疑問は、周りにスケッチしている同じゼミの友人たちの表情を見て消えていった。
平素から単位の取れない私は授業に出るしかないのである。しかも、うまく描けなくて泣けてきたところである。が、描くことは楽しいのである。なんだかちぐはぐな思いを胸に持っていた。
事前情報では菖蒲園に行くと聞いていたが、菖蒲園は午前のみで、これもうまく描けなかった。あたり一面に広がる菖蒲の花の美しい色合いに見とれていたのだが、滝の前では疲労がピークに達していた。
山を下るころには日は西に傾き、情景は刻一刻と移り変わっている。
学校で講評を終え、特急で博多に向かうころには途中下車して自宅に帰りたい気持ちが垂れ込めていた。
山奥にいる間に福岡ポエイチ1日目は終了していた。
弊社は大坂文庫に作品を委託していたはずであるが、一体全体どんな首尾であったのだろうか。1日目、大坂文庫代表の上住さんには売り子をするという約束を果たせない代わりに、ちゃんみおという弊社の専属売り子を派遣した。ロングヘアーのわいわいと明るいわんころみたいな女の子である。ちゃんみおとは短大の時に出会ったのだが、平素から連絡が取れるわけではなく、昨今餌付けをしていたら懐いてきた。という次第である。所謂、マブダチなのである。
ちゃんみおはああ見えて人見知りであるので、初対面の人には異様な絡み方をするので心配もしていたが、なんのことはなかった。
「二日酔いのモナムール」の打ち上げに合流した時、場に馴染みすぎるほと馴染んだちゃんみおを見てホッとしたのと同時に、ゆらさん、にゃんしーさん、上住さん、そして鯨さんの顔を視認すると、俄かに疲れも和らぎ嬉しい気持ちが込み上げてきた。
山奥に引き込んでいる予定であったので、幹事は上住さんに丸投げしていたのだが「ひなた」という気の利いた店を予約していた様子。
ゆらさんからは台湾のお土産を頂き、私の方からは今回の「二日酔いのモナムール」の執筆陣に金魚の手ぬぐいを贈呈した。喜んでいただけるか心配であったが鯨さん曰く「小柳日向だと思って使う」とのことであった。
一次会は到着してほぼすぐにお開きな感じであったが、二次会には道路向かいにあるスペイン・バルへ移動した。
昼間滝を目の前にしていたことが夢の中の出来事に思えるほど、刻は楽しく音の速さで流れていった。
森井聖大が合流してからの朗読会も迫力があり圧倒されっぱなしであった。私は照れ屋であるので朗読に参加できずに、ゆらさんやにゅんしーさんのパフォーマーとしての貫禄が印象的であった。
私は隅っこの方で、ちゃんみおと通称「みおひな体温差発電」と言われる発電を遅々としていた。私の低体温の手とちゃんみおの高体温な手を近づけると、気流ないしは電流が発生する。というからくりになっている。その発見をした鯨さんはとても楽しそうにしていて可愛らしかった。
森井さんとは二年ぶりの再会であり新鮮であった。
小柳はお酒に弱いので案外にすぐ酔った様子で、次の日の二日酔いを気にしながら、ヴェローチェでのひと時をのんびりと過ごし、一行と別れを告げた。
二日目はやはり二日酔いで頭が痛かった。懸念していた通り、上住さんが遅刻してやってきて、二人で会場に12:00に滑り込んだ。
ポエイチというイベントは不思議なイベントだと思う。冷泉荘という建物がその不思議を生み出すのか、のんびりとしたイベントである。イベントでは頭がぼんやりしていたこともあり、所々記憶が飛んでいる気がする。
加藤治郎さんによるパフォーマンスの後、ちゃんみおが遊びに来た気配がして私は席を立ち冷泉荘の入り口まで向かえにいった。ちゃんみおと会場をぐるりとまわり、気になった作品から手にとっていった。私は基本的に一目惚れした作品を買うという傾向があるので、値段は気にせずいいものを購入した。気になるものはやはり手間暇がかかっているな、という印象。
大坂文庫の隣の高森さんには、昨日もちゃんみおは餌付けをしていただいていた様子で、わんわんと懐いていっておかしかった。
冷泉公園で鯨さんに頂いた、クリームパン(ほぼクリーム)を食べて、ちゃんみおと談笑していた。私の目から見たちゃんみおは楽しそうであったので、今回のイベントに連れてきてよかったなと感じた。
冷泉荘に戻ろうとすると、丁度帰ろうとしている鯨さんに駐車場でばったりと会った。
「福岡に移住してくださいよ」
などという冗談を言いながらも、熱い握手を交わして鯨さんは大きく手を振りながら去っていった。
結果として、本も結構頒布できたのではないかという印象であった。1日目はちゃんみおのおかげで「二日酔いのモナムール」がよく売れ、二日目は散文を好む客層だったのか「透明物語」がよく売れ、完売に至った。
大坂文庫さんの刊行物も去年の倍は売れたという報告を聞き、胸をなでおろした。
日表造形社詩誌シリーズ第一弾と銘打っているからには、第二弾もあるはずであるが、当面はこの第一弾が弊社の看板作品になるだろうと思う。「二日酔いのモナムール」は居場所を失った人や、居場所を作ろうとする人が必然的に集まったような企画であった気がする。いや、集めたのは私なのであるが、なんとなく集まってきたという印象が私の中であるのだ。
言うならば、「二日酔いのモナムール」が欲した作家陣がこの面子であったのだろう。
大坂文庫並びに、日表造形社の刊行物を手にとってくださった方、本当にありがとうございました。
そして、次の日学校がある私は、打ち上げに参加することなく帰宅したが、ブログ読者は気がついていると思うが、やはり学校には行っていない。
学校に行けるようになるのが当面の課題である。そうして楽しかった日の夜に寂しくなって泣いてしまうような私。これからも頑張って活動したい。と、思ったり、もうやめたい、と思ったり。
そうこうしながら、楽しかった思い出を振り返って、一人では発電できないのだけれど、低体温の両手を合わせてみたりしながら、ポエイチが終わった夜は更けていった。